オグリキャップ 「不世生のスーパースター②」
~中央入り後も快進撃は進む~
昭和63年1月に瀬戸口厩舎に入厩してからも、
順調に調教が進められ、中央デビュー戦は
3月の阪神で行われる3歳重賞「ペガサスステークス」に決まる。
さらに、鞍上は名手河内洋騎手。
河内騎手と言えば、当時すでに関西No1ジョッキー。
そんな河内騎手になぜすんなりと決まったかというと、
オグリキャップにはクラシック登録がされていなかったからだ。
クラシック登録がされていないといことは、
皐月賞・ダービーに出走する事ができないわけで
河内騎手が、自分のお手馬(サッカーボーイ)と
オグリキャップがレースで「被る」という事を
避けられるというわけだ。
その点でいえば、オグリキャップがクラシック登録に
間に合わなかったことが、幸いしたともいえる。
何にしろ、経験値豊かな騎手にデビューを任せられることは、
この上なく心強かったであろう。
いよいよ中央初戦となる「ペガサスステークス」。
鳴り物入りで転入してきたオグリキャップではありましたが、
そこは流石に未知の部分が大きく、1番人気はシンザン記念を
勝利してすでに重賞馬だったラガーフラック。
オグリキャップは2番人気での発走となった。
調教段階からオグリキャップに乗っていた河内騎手は、
オグリキャップが人のいう事をよく聞く馬との認識から、
スタートから仕掛ける必要なしの判断をしていた。
逆にスタートから仕掛けることにより、
掛かってしまう可能性があるからだ。
そのことから、レースもスタートは無理せずに、
後方からの競馬となった。
4角でもまだ中団であったが、手応えも十分。
あっという間に先行集団を捉え、ラガーフラックに3馬身差の完勝。
中央デビュー初戦で、いきなり重賞馬に勝ったことで、
懐疑的だった競馬ファンの目も変わっていくことになっていきました。
2戦目は3週後の「毎日杯」。
重馬場で行われた上に、距離は2000m。
オグリキャップがそれまでに走った最長距離は1600m。
不安点が無かったわけではないが、それでもオグリキャップは勝利した。
着差は僅かだった(クビ差)。
だが、前目先行策実り勝ちパターンに嵌ったファンドリデクターを
後方から差し切った内容は完勝と言っていい。
しかも、ここで負かしたヤエノムテキ(4着)とディクターランド(7着)が
皐月賞で1~2着になっただけに、オグリキャップの強さが際立った。
次戦の「京都4歳(現3歳)特別」では、
河内騎手がNHK杯でサッカーボーイに騎乗のため、
南井克己騎手が乗る事となった。
稍重で大外枠。さらに58kgという重斤量。
いくら相手が格下レベルだとはいえ、楽観視はできなかった。
しかし、終わってみれば5馬身差の圧勝劇。
2着のコウエイスパートは、のちに「神戸新聞杯」・「京都新聞杯」と
僅差の2着になる馬。
そんな相手に、ここまでの力差を見せつけたのだ。
ダービーの翌週の「ニュージーランドトロフィー4歳S」では、
再び河内騎手に手綱が戻る。
しかし、ここまで順調だったオグリキャップに異変が訪れた。
環境の変化と連戦で、疲れが出たのである。
池江敏郎(池江泰郎調教師の兄)厩務員が、
「この時のオグリの体調が1番悪かった」
とのちに語ったほどだった。
しかし、結果は7馬身差の大楽勝。
2着のリンドホシはのちにスプリンターズSで3着に入るほどの馬。
3週前に同条件で行われた「安田記念」でニッポーテイオーが
叩きだしタイムが1分34秒2。
なんと、オグリキャップの勝ちタイムはそれより0.2秒速い1分34秒0だった。
ダービーで春のクラシックは、すでに終わっていたものの、
どの3歳馬が1番強いのか、答えは出かかっていた。
1か月後の「高松宮杯」でいよいよ古馬に挑戦となった。
この年のオークス馬コスモドリームも出走していたとはいえ、
相手は古馬のランドヒリュウただ1頭だった。
ランドヒリュウはすでに重賞2勝をあげ、前走宝塚記念でも、
4着と好走をしていて、古馬との実力差を計るにはちょうど良い相手だった。
ランドヒリュウの鞍上は南井騎手。2走前にオグリキャップに跨った騎手だ。
その南井騎手は、奇襲に出た。
今までただの1度も逃げなかったランドヒリュウを、
逃げさせたのです。しかもスローな流れで完璧なペースを作りました。
それでもオグリキャップは直線で交わしきった。
しかもレコードタイム。
これで中央に転入後、無傷の重賞5連勝。
同じく中央に転入して、一躍スターとなったハイセイコーの持つ
転入後重賞4連勝という記録を、事もなげにクリアしたのだ。
夏に一息入った後、秋の目標を天皇賞・秋とし、
秋の初戦として10月の「毎日王冠」が選ばれた。
このレースの出走馬は、これまでとは一味も二味も違った。
人気順に見ていくと、重賞4勝の上にその年の安田記念2着だった、
女傑ダイナアクトレス。
前走でシリウスシンボリを負かしている、ボールドスノーマン。
ダービー制覇後、海外レースを転々としたシリウスシンボリ。
この年の天皇賞・春2着だったランニングフリー。
1年前の安田記念を勝利しているフレッシュボイス。
オグリキャップが出走していなくても、十分すぎるメンバーだった。
休み明けもあってかオグリキャップは前走から16kg増での出走。
それでも1番人気に推される。
そんな若駒に負けるものかと、歴戦の古馬は躍起になった。
しかし、関係なかった。
オグリキャップは包まれるのを嫌い、大外を回っての勝利。
もはや、重賞で好走している程度の古馬では相手にならなかった。
重賞の連勝は「6」まで伸びた。
この馬の勢いは、どこまで続くのか。
世間の関心は、
もう1頭の「葦毛の怪物」との決戦に沸き立っていた。
<参考文献>
『2133日間のオグリキャップ』著:有吉正徳・栗原純一
『オグリキャップ 魂の激走』
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