大穴列伝 「障害帰りの大激走 テンジンショウグン」
普段は歓声に沸く直線だが、
目の前の光景に、観客は騒然となった。
中山の最後の直線で大部分の観客が発した言葉は、
「は?」
だろう。
第46回 日経賞
天皇賞・春へとつながる伝統あるGⅡ戦。
人気は前年度の日経賞勝ち馬で有馬記念を4着後、
アメリカジョッキークラブカップを3着、中山記念2着と、
大の中山巧者振りを発揮ししてローゼンカバリー。
休み明けだが前年度の菊花賞2着馬ダイワオーシュウ。
そのダイワオーシュウと菊花賞で差のない競馬をし、
前走のダイヤモンドSでも3着に入ったトキオエクセレント。
他にも素質が徐々に開花し始めていたステイゴールドが
条件戦から4戦連続2着で挑んできていた。
12頭立てという少頭数ながら、好メンバーが揃っていました。
その中で、異色の経歴を持つ馬が2頭出走してきました、
アワパラゴンとテンジンショウグン。
なんと前走で障害レースを走っていた馬達だ。
アワパラゴンは障害馬に転向後、
圧倒的な強さで破竹の6連勝。
阪神・東京・京都と障害重賞レースを次々に制し、
史上初の障害グランドスラムを達成するため、
残る中山競馬場の障害重賞(中山大障害)を目標にしていた。
だが、通常のステップレースだと酷量が課されるため、
この日経賞でワンクッションおくつもりでの出走だった。
かたやテンジンショウグンはこの時8歳。
デビュー戦を圧勝した以外は、ずっと条件戦でウロウロし続け、
6歳時に日経賞で3着(実はこの時も11頭立てで287倍の最低人気)に
入っているものの、重賞勝利どころかOPも勝利していなかった。
障害レースに転向後も、障害未勝利・障害条件戦は勝ち上がったが、
OPレースとなると、落馬や大敗等で成績は振るわなかった。
それでも障害レースに活路を見出すべく調教は積まれたが、
中山競馬場の障害コースはこの馬に合わないと判断され、
この開催時期は平地に戻そうという事で日経賞に出走が決まった。
陣営は鞍上の江田照男騎手に、賞金が入る8着以内に入ってくれと頼んだ。
陣営からも期待されていなかったテンジンショウグンのオッズは、
12頭立てで(圧倒的)最低人気の355.7倍。
アワパラゴンは122.8倍の10番人気だった。
スタートが切られアワパラゴンが先頭に立ちそうな所で、
ショウナンアクティがそれを振り切りハナに立った。
人気薄(10番人気・11番人気)2頭に引っ張られ、
馬群は1周目のスタンド前を通過。
テンジンショウグンは後方2番手でじっくり折り合っていた。
1塊のまま3コーナーに入り、外から徐々にローゼンカバリーが進出。
それにつられ各馬が一斉に動き出した。
最終コーナーを良い手応えで交わしていくローゼンカバリー。
だが、さらにその外をそれ以上の手応えで上がっていく馬がいた。
テンジンショウグンだ。
直線に入ってローゼンカバリーが先頭に立つ。
だが、その外を追うテンジンショウグンも勢いが止まらない。
直線に入るまでは「障害馬だし、ここまでだろう」と思ってい観客は、
目の前の光景が信じられなかった。
ローゼン鞍上横山典弘騎手の必死のムチも、
テンジンショウグンの勢いには勝てなかった。
ラスト100メートルの所でテンジンショウグンは先頭に立ち、
1着でゴール板を過ぎた。
1番人気ローゼンカバリーは最後方待機からテンジンショウグンと
一緒に上がってきたシグナスヒーローにも交わされ3着に終わった。
馬連配当21万3370円は現在(2013年)も重賞レースの最高額。
テンジンショウグンはその後、障害競走に戻ることなく、
平地重賞戦線で4戦したが成績は振るわず、アルゼンチン共和国杯の
18着を最後に引退。
2012年8月まで警視庁の騎馬隊で役務をこなし、
現在は北海道日高にある養老牧場ローリングエッグスクラブステーションで
余生を過ごしています。
障害レースからの一世一代の大駆け。
まさに一発屋の名にふさわしいその走りと、
テンジンショウグンという名前のインパクトから、
これからも語り継がれることになるでしょう。
着順 | 枠 | 馬番 | 馬名 | 人気 | 単勝 |
1 | 1 | 1 | テンジンショウグン | 12 | 355.7 |
2 | 6 | 8 | シグナスヒーロー | 7 | 39.3 |
3 | 5 | 6 | ローゼンカバリー | 1 | 2.5 |
4 | 7 | 10 | ステイゴールド | 5 | 7.3 |
5 | 5 | 5 | マウンテンストーン | 6 | 18.2 |
単勝:(1)35,570円
複勝:(1)4,700円、(8)650円、(6)130円
枠連:(1-6)59,000円
馬連:(1-8)21,3370円
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