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オグリキャップ 「不世出のスーパースター⑤」

4話
 

~栄光と挫折~

近藤オーナーが2億円での契約で前年に引き続き所有することになった。
アメリカ遠征の話も持ち上がったが、有馬記念5着という、
オグリキャップにとって初めての着順に、その遠征プランも白紙。
昨年実現できなかった天皇賞・春へと目標が変わった。

しかし、思ったよりも調整が進まず、
天皇賞・春の前哨戦である大阪杯の出走に間に合わず。
結局天皇賞・春への出走も叶わなかった。

目標を安田記念にスライドしたものの、
新たな問題が発生した。

騎手だ。

河内、岡部、南井、騎手と陣営との確執ともいえる交代劇で、
このトップジョッキー達に替わる新たな騎手探しが迫られたのだ。

そこで、白羽の矢が立ったのが若き天才騎手武豊だった。

武豊騎手はオグリキャップが笠松でデビューした年の
1987年に騎手デビュー。
そこから次々に騎手記録を塗り替えていき、ついには3年目にして、
全国リーディングジョッキーとなる。

そのリーディングジョッキーとなった翌年に
オグリキャップとのコンビを組むことになった。
老練さこそ前者の騎手達には及ばないものの、
勢いと競馬センスでは決して負けていなかった。

 

『第40回安田記念』

順調に調整されたオグリキャップは、天皇賞・春を回避したことも有り、
万全の状態で出走できることとなった。
このレースにはかつての主戦ジョッキーだった河内、南井、岡部が、
それぞれ有力馬に乗り、オグリキャップ包囲網を作っていた。
オグリキャップを知るトップジョッキーに囲まれて、
若武者武豊にも相当な重圧があったに違いないが、
この新コンビは、そのプレッシャーをはねのけた。

抜群のスタートで2番手から進めたオグリキャップは
直線で先頭に立つと、あとは独走。
岡部騎手鞍上のヤエノムテキが追いかけるが、
逆に突き離す走りを見せ、コースレコードで勝利。
完全復活を思わせた。

『第31回宝塚記念』

ライバルのスーパークリークがレース直前で回避(そのまま引退)。
敵は前年度優勝馬イナリワンのみだったが、
今回も騎手について悩まされた。

前走の安田記念で復活勝利をもたらした武豊騎手は、
スーパークリークに騎乗予定だったので無理。

そこで、陣営は岡潤一郎に託した。
岡騎手は、1988年にデビュー。翌年の1989年には、
札幌競馬場で5連続騎乗勝利という離れ業も達成。
武豊騎手に勝るとも劣らない才能の持ち主でした。
(1993年に落馬事故で24歳の若さで逝去)
ただ、大レースの経験が乏しい事だけが不安だった。

スーパークリークはいない。イナリワンは不調が伝えられる。
オグリキャップの単勝1.2倍は当然のモノだった。

しかし、レースでは予想外の出来事が起こった。
オグリキャップが直線まったく伸びなかったのである。

4コーナーまで楽な手ごたえで上がってきたものの、
岡が必死にしごいても前を行くオサイチジョージとの差は
縮まらないどころか、ヤエノムテキに詰め寄られる場面さえあった。

岡騎手の騎乗ミスを上げる声もあったが、
オグリキャップ自身に闘争心が感じられないような凡走であった。

その後、脚部不安もあり夏に予定されていた海外遠征は再び白紙。
天皇賞・秋に向けて調整が進められた。

 

『第102回天皇賞秋』

このレースから次のジャパンカップまで、
当時の中央最多勝利ジョッキーである増沢末夫に、
その手綱がゆだねられた。

増沢騎手は、先行策を得意とするジョッキーで、
この日もオグリキャップを先行させるも、
スタートから勢いをつけすぎて、引っかかってしまった。

引っかかってしまうと、最後の詰めを甘くするオグリキャップは
この日も直線での伸びを書いて6着。

スーパークリークイナリワンもいないレースで、
掲示板を外し、今まで負けたことのなかったヤエノムテキが、
はるか先頭でゴールしている光景は、信じられないものだった。

 

『第10回ジャパンカップ』

オグリキャップの力の衰えは、調整段階でも見受けられた。
調教相手だった格下の馬にさえ遊ばれるようになったのだ。

闘争心の権化だったオグリキャップの姿はそこになかった。

レースも最後方からの追走で、直線でもまったく伸びないまま11着。

「オグリはもう終わった。」
「このまま引退させた方が良いのでは?」

という声が上がってくるのも当然だった。

 

~奇跡のラストラン~

オグリキャップの伝説を語る上で、
最後にして最大の出来事が起こったのが、

『第35回有馬記念』

それを語る前に。
古い風が吹き抜けていくと新しい風が吹くのは当然の摂理。
スーパークリークが去り、イナリワンも去った。
『平成3強』と言われた内、残ったオグリキャップも、
この有馬記念でターフを去る事となる。

世間では新たなヒーローを探し始めた。

かつてのライバル、タマモクロスと同じ父(シービークロス)を持つ
ホワイトストーン。春先こそひ弱な感じの馬だったが、
タマモクロス同様、一度成長曲線を描いたらとどまることを知らない。
セントライト記念を勝利し、続く菊花賞でもメジロマックイーンの2着。
ジャパンカップでも日本馬最先着の4着となった。

メジロライアン
クラシックの勝利は無かったものの、3冠レース全てにおいて
3着以内に入る堅実さ。
3歳勢屈指の実力を持つ若武者だった。

この年の菊花賞を勝利し、後に競馬界を蹂躙するメジロマックイーンは、
馬主サイドの「ライアンに有馬を取らしたい」という理由から、
すでに休養に入っていた。その後の活躍を見ると、もし出走していたら、
どうなっていたか分からない程の存在だったが、今はまだそこまでの
知名度は無かった。

ホワイトストーンとメジロライアン。
この若い3歳勢がオグリキャップの後継と見られていたのか、
人気もオグリキャップの上をいった。

オグリキャップの調教も、万全といえるほどのものではなかったが、
オースミシャダイとの併せ馬でわずかに先着するぐらいの活力は、
戻っていた。もともと、調教掛けしない相手ではあったが、
先着することにより、オグリキャップに自信を
取り戻そうとした陣営の苦慮だった。

それでも世間では、同情に似たような目でしか見られなかったのである。

そんな状況が渦巻く有馬記念。
オグリキャップにとっては激動だった競走馬人生も
泣いても笑ってもこの1戦が最後である。

そんなオグリキャップを見るために、
中山競馬場には17万7779人の観客が集まった。
そんな観客も、「勝利」までを期待する者は少なかったはずだ。

ゲートが開き、予想外なことが起こった。
逃げると思われたミスターシクレノンが出遅れ、
さらに代わりに先頭にたったオサイチジョージが作る流れが、
とんでもなく遅かったのだ。

長距離でのスローペースは我慢の連続になる。
オグリキャップは馬群中央でジッと我慢していた。
逆にホワイトストーンが内から引っかかる感じで先頭集団に取りつく。
レース経験の差がモロに出た瞬間でした。

3コーナー手前から、武豊騎手のゴーサインの元、
オグリキャップは外をスルスルと上がっていく。
4コーナーでは内でもがく馬達を横目に、
オグリキャップは持ったままの状態で先頭へ。

観客の声援は、「同情の頑張れ」から「純粋な頑張れ」へと変わっていった。

この直線での光景は、自分が購入していた馬券に、
オグリキャップの名前が無かったしても、
おそらく、ほとんどのファンがオグリキャップが勝つ事を
祈ったと想像する。

引っかかった分最後のスタミナが持たず、
内でもがくホワイトストーン。
後方から前を行くオグリキャップを必死で捉えようとするメジロライアン。

しかし、武豊騎手のムチに必死に応えるオグリキャップに、
それら若き新星たちは屈するしか他なかったのだ。

 

 

武豊の左手が高々と上げられた瞬間、
オグリキャップの激動の競走生活は、
スーパースターの名に恥じぬまま終わりを迎えた。

勝利ホースのみが行えるウイニングランの間、
中山競馬場には「オグリコール」が鳴り響いた。

 

~引退とその後~

オグリキャップは、史上初めて3つの競馬場で引退式を行った。
京都・笠松・東京。
いずれも多くのファンが詰め寄ったが、
中でも、笠松では市の人口を超える人数が集まる。

こうしてターフを去ったオグリキャップは、
北海道の優駿スタリオンステーションで種牡馬として生活することになる。

種牡馬としての成績はオグリワンなどの重賞活躍馬を出したものの、
目立った成績を上げることなく、2007年に種牡馬引退。
功労馬として引き続き優駿スタリオンステーションで繋養された。

その3年後の2010年、放牧中に右後肢脛骨を骨折。
手の施しようがないという事で、安楽死の処置がとられた。
(25歳没)

 

オグリキャップの競走生活を振り返ると、
決して恵まれたものではなかった。

クラシックへの不出走。オーナーサイドのゴタゴタ。
騎手の乗り変わり。過酷なローテ。

しかし、そんな逆境を持ち前の根性で乗り越えて、
数々の名勝負を演じてきた馬に、
ファンは胸を熱くしたのだろう。
事、根底には精神論が潜む日本人気質にとっては、
自分の姿にだぶらせていたのかもしれない。

 

オグリキャップの成績を上回る競走馬は
コレからもたくさん出てくるでしょう。
しかし、オグリキャップ程たくさんの人の心を揺さぶる馬は、
コレから出てくることは無いのかもしれない。

 

~終わり~

4話

 
<参考文献>

『2133日間のオグリキャップ』著:有吉正徳・栗原純一
『オグリキャップ 魂の激走』

 

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