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ウオッカ 「府中を酔わす極上の切れ味⑥」

第5話 ← ● → 第7話

 
~世界戦の壁~

天皇賞・秋で歴史に残る名勝負を繰り広げたウオッカは、
昨年惜しくも4着に敗れたジャパンカップに向かう事になった。

主戦騎手である武豊騎手はこのレースでメイショウサムソン
騎乗することが決まっていたため(結局落馬事故により乗ることできず)、
鞍上は安田記念で1年ぶりの勝利をもたらした岩田康誠騎手に委ねられた。

レース1週前の坂路追いきりで岩田騎手が騎乗し、
800メートルを51.3-12.7と抜群の動きを見せ、
本追い切りは55.7-12.5と軽めに流す程度で本番を迎えた。

第28回 ジャパンカップ

メイショウサムソンウオッカディープスカイ
史上初3世代のダービー馬が揃ったこの年のジャカッパンカップ。

人気も若いダービー馬順で決まった。

1番人気はディープスカイで3.4倍。
2番人気はウオッカの3.7倍。
3番に気がメイショウサムソンの6.5倍。

17頭立ての4番枠に入ったウオッカは、いつものように好スタートを切った。
岩田は勝利した安田記念と同じく無理に抑えるつもりはなかったが、
他に行く馬がいずにスタート後すぐに先頭に立ってしまった。

外からおっつけ気味に上がってきたネヴァブションにハナを譲り、
ウオッカは抑えながら内ラチ沿いで折り合いをつけようとするも、
しきりに行きたがるウオッカ。

1000メートルを1.01.8とスローな流れ。
好位につけたウオッカにとっては有利な流れだった。

そのまま直線に入り岩田が追い出しにかかり、
前を行くネヴァブションマツリダゴッホの間を割ろうとするが、
いつもの切れ味では無い。

一瞬馬群に飲み込まれそうになるが、坂を上り切ったところで、
ようやくエンジンがかかり始め、先に抜け出し先頭を走っていた、
マツリダゴッホの内から交わしにかかる。

しかし好位の外目を追走していたデムーロ鞍上のスクリーンヒーロー
後方からただ1頭追い込んでき、直線豪快に伸びてきたディープスカイ
一緒に外から内で粘る各馬を交わしていき、
結果スクリーンヒーローがディープスカイの追撃を半馬身交わしゴール。

ウオッカは最後の意地でマツリダゴッホとの競り合いを制し3着だった。

岩田騎手・角居勝彦調教師共に、
『距離の壁』を意識するコメントを残した。

 
1年ぶりの勝利、ライバルとの決着、残り続ける課題

年度代表馬に輝いたウオッカの
内容の濃かった4歳の戦いはここで終わりました。

 
年が明けて、2009年。

ウオッカの最初の目標は前年同様、ドバイデューティフリーとなった。
この年は前年と違い早めに現地入りし、前哨戦であるジュベルハッタ
出走し本番に向けて調整する方法がとられた。

同じくドバイワールドカップに出走する予定だった、
終生のライバル馬ダイワスカーレット無念の引退が発表された3日後、
ウオッカは関西空港からドバイに向けて出発した。

ドバイナドアルシバ競馬場で行われるジュベルハッタ
ドバイデューティーフリーと同じく芝1777mで行われるGⅡ戦。

鞍上を再び武豊騎手に任せられ、
速いスタートから好位のインコースにつけ折り合いをつけていた。

直線を迎えて各馬が追い出しに入る中、
ウオッカは前が壁になり中々追い出せない。

残り200mを過ぎてようやく内が空いたところで追い出しに入ったが、
時すでに遅し。前との差をつめる事は出来ずに5着に敗れた。

とはいえ、ほとんど疲れを残すことなく、
ここまでの競馬ができたことは、必ず本番で好結果を残すはずと、
陣営は自信を持った。

レース後もいたって順調に調整は進められ、
陣営は大きな自信を持って本番に挑む事となった。

 
ドバイデューティフリー

この年のドバイデューティフリーは世界のGⅠ馬が16頭中10頭揃うという、
レベルの高いメンバーが揃ったが、中間からパドックまでを見てきた角居には、
ウオッカが凡走するイメージは湧かなかった。

3番枠から好スタートを切ったウオッカは、
内のグラディアトゥーラスにハナを譲り2番手を追走した。

しかしグラディアトゥーラスが他馬を引き離して逃げた為、
結局2番手追走のウオッカがレースを引っ張る形になった。
とはいっても、ウオッカ自身も後続と4馬身ほど開けて走っていた。

直線に入って鞍上の手が動くグラディアトゥーラスに対し、
ウオッカ鞍上の武豊は全く動かずに前を追う。

後続の馬から伸びてくる気配は無かったため、
前をいくグラディアトゥーラスさえ交わせば念願の世界制覇だった。

残り400を切って追い出しに入ったウオッカ。
一瞬良い脚を使ったものの、そこから伸びるどころか失速していく。

勝利を確信したグラディアトゥーラス鞍上のアジュテビの手が
ゴールする前から上がる中、ウオッカは後続にも飲み込まれ7着。

逃げて二の脚を使ったグラディアトゥーラスが
強い競馬をしたのは分かるが、順調に調整が進められ、
レースでもペースも追いだしのタイミングも
悪くなかったウオッカが、ここまで負けるのは陣営にとって、
ショックだったし不可解だった。

調教も状態も良かった。
落ち着いてもいたが、レースで前を捉える覇気を感じない。

「もしかしたら、お母さんになる準備に入ったのでは・・・。」

それまで活躍していた牝馬が、母としての性に目覚めた時、
突然走らなくなったのを何度も見てきた角居は、こう思った。

谷水雄三オーナーも落胆の機内で角居と同じことを考えていた。

 

~府中マイル~

4月2日にウオッカは無事帰国した。
帰国初戦は前年同様ヴィクトリアマイル(東京芝1600)。

5月1日には調教が開始され、1週前・本追いきりと、
同厩舎のトライアンフマーチとCWコースで併せ、
この年の皐月賞2着馬を子ども扱いするような動きを見せる。

GⅠレースと言えど牝馬同士の戦い、
昨年2着に敗れた雪辱を果たす意味でも、
負けられないレースとなった。

特に角居の中では、このレースで結果が悪ければ、
引退・繁殖への道に進むことになる思いだった。

第4回 ヴィクトリアマイル

ウオッカのこれまでの成績を見ると、
「東京」「マイル戦」の2点は特出した成績を出している。

東京競馬場で着外になったのは(といっても4着1回だけだが)、
世界の強豪と戦ったジャパンカップだけだ。
そしてマイル戦(1600~1800)で着外になったのはドバイ戦のみ。

この東京芝1600mは、まさにウオッカにとってマイホームだ。
そんなこともあり、ウオッカは単勝1.7倍の1番人気に推された。

府中に強い風が吹く中、スタートは切られた。

いつものように抜群のスタートを切ったウオッカの鞍上武豊は、
無理に抑えることはしなかったが、他馬のいく気に任せて、
6番手の内で待機する事にした。

4コーナーを回り直線に入ったところで、
前を行くブーケフレグランスブラボーデイジーの間を割り、
馬なりのまま、アッという間に先頭に立つ。

残り200メートルで後続と4馬身以上の差が開いていた。
後方から追い込んでくる馬はいない。

だが、武は手綱を緩めることなく追い続ける。

本来、勝利が確定したレースの場合、
できるだけ次走に向けてダメージを残さないまま終えたいものだが、
ウオッカはゴール前で自分で競馬をやめてしまう癖があった。
条件戦なら力の違いでそれでも問題ないのだが、
強い相手となると、それが命取りとなる。

武はウオッカに最後までしっかり走る競馬を覚えさせるため、
結果的にマイルGⅠ史上最大着差となる7馬身差がついたこのレースでも
最後まで追う事をやめなかった。

ウオッカはこの勝利でメジロドーベルに並ぶ牝馬最多のGⅠ5勝。
獲得賞金も9億1608万となりホクトベガを抜き賞金女王となった。

谷水オーナーはレース後、
「ウオッカは年内で引退します。」
と語った。

ドバイ敗退後から「繁殖入りしたがっている」という思いが、
この圧勝振りを見ても、拭い去る事は出来なかった。

角居や調教助手と話し合った結果、角居らも同意見だった為、
その思いをより強くしたのだ。

 

第59回 安田記念

ヴィクトリアマイルであれだけ突き離す競馬を見せても、
ウオッカは思いのほかダメージは少なく、
むしろ調子はどんどん上がっているように見えた。

ヤマニンゼファー以来16年ぶりの連覇が期待された。

だが、ヴィクトリアマイルと違って、
今回は相手が格段に強化されている。

その内の1頭が前年ジャパンカップとウオッカと、
激戦を繰り返したダービー馬ディープスカイだ。
マイル戦でのダービー馬対決は、カツラノハイセイコオペックホース以来、
28年ぶりという意味でも注目が集まっていた。

そして、もう1頭。
前年、毎日王冠でウオッカを破ったスーパーホーネットだ。
毎日王冠を勝利後、マイルチャンピオンシップでも2着に好走。
この年も、前走の読売マイラーズカップを完勝しているだけに、
またしてもウオッカに土をつけるか注目された。

だが、ウオッカの単勝倍率は1.8倍。
これだけのメンバー揃ってもヴィクトリアマイルと、
ほぼ変わらない期待を背負ったのだ。

 
ゲートが開き、好スタートを切った外枠各馬を先にいかせ、
ウオッカは中団の内目を追走した。

前年同様、ヴィクトリアマイルとは違う速いペースに競馬がしやすいのか、
ウオッカは、これまでにないほどの折り合いがついていた。

これなら前走同様楽勝するのでは、と誰もが思った。
だが思いもよらない事態になる。

直線に入ってウオッカが包まれる形となった。
前も左右もどこにも抜け出すスペースが無かったのだ。

武が進路を探している間に、
直線でウオッカの横から進路をこじ開けたディープスカイが抜け出す。

残り200メートルを過ぎて、ようやく前の壁がばらけて追い出しに入るも、
こんどは先頭を走るディープスカイが壁となり、一瞬ブレーキをかけた。

しかしエンジンを再点火したウオッカは、
ラスト20メートルの所でディープスカイに並び交わしてゴール。

実質ウオッカが追ったのは最後の100mだけだった。

ほぼ絶望的な位置取りからの差し切り勝利に、
東京競馬場に詰め寄せた観客は驚愕した。

そんな周りの想いと裏腹に、鞍上の武豊は意外と冷静だった。
ウオッカの手応えからして、前が開きさえすれば絶対差し切れる。
そんな考えから、馬群を無理にこじ開けるのではなく、
ひたすら前が開くのを待っていたという。

それほど、この時のウオッカの充実度は、
他の歴戦古馬たちとは違ったのだ。

 
今なお進化し続けるウオッカに、
谷水は前走後の「年内引退」を撤回。
秋のレース振りを見てから判断すると語った。

「どこまで強くなるのか。」

早く引退させてウオッカの子供に夢を継ぐよりも、
ウオッカの可能性を追い求めたい。

そんな思いからくる発言だった。

 
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